缶スプレーでの塗装は、家具や自転車、鉄部の補修などDIYでよく使われる方法です。ただ、いざやってみると液だれやムラ、なんとなく白っぽくくもってしまうといった失敗に悩まされることも多いはずです。
実はこうした失敗の多くは、特別な技術が足りないというより、いくつか決まったポイントでつまずいているだけのことがほとんどです。距離、厚塗り、動かし方、気温や湿度、準備、マスキングや下地。順番に見ていけば、次に塗るときに気をつける場所がはっきりしてくると思います。
缶スプレー塗装で失敗する人の多くは同じところでつまずいている
缶スプレーの失敗として特によく出てくるのは、液だれ、ムラ、そして白っぽくくもる「白化(かぶり)」の3つです。液だれは、塗料を一箇所に乗せすぎて重みで垂れてしまい、乾いたあとに表面がボコッと盛り上がったり、涙のような跡が縦に残ったりする現象です。ムラは、スプレーの動かし方が均一でないために起きるもので、同じ面の中で色の濃い部分と薄い部分が斑点状や帯状に出てしまいます。白化は、湿度の高い時期に塗膜が結露のような状態になり、艶が出ずに粉を吹いたように白っぽく曇る現象で、色そのものより表面の質感が変わって見えるのが特徴です。慣れないうちはこの3つを見た目だけで区別しにくいこともありますが、垂れているか、濃淡があるか、艶が消えているかを見れば、だいたいどれに当てはまるか判断できると思います。
ちなみに、液だれ・ムラ・白化とは別に、塗料が思ったように乗らずに弾かれてしまう「弾き」という失敗もあります。表面が油を弾いたようにブツブツと丸まってしまい、塗膜が均一に広がらない状態です。これは吹き付けの距離や動かし方の問題ではなく、塗装面に油分や汚れ、指紋の皮脂などが残っていることが主な原因です。原因の性質が液だれ・ムラ・白化とは違うため、この記事では下地やマスキングを扱う章でまとめて取り上げます。ここでは、塗る前の下地に何か残っていないかも失敗の見分けどころの一つとして覚えておいてください。
この3つは原因がそれぞれ違うので、対策も別々に考える必要があります。ただ、共通しているのは「準備や手順のどこか一箇所を飛ばしてしまった」という点です。腕が悪いというより、確認すべきポイントを知らなかっただけ、ということが多い気がします。
塗装そのものが難しい技術というより、距離、厚み、動かし方、気温や湿度、下準備、マスキングや下地といった、決まった数のチェック項目を作業の流れに沿って順番に押さえられるかどうかの話に近いと思います。
この記事も、その流れに近い順番で章を並べています。たとえば弾きは吹き付けを始める前の下地の状態が原因なので、スプレーを持つ前の準備段階でつまずいているケースにあたります。一方で液だれやムラは吹き付けている最中の距離や動かし方、白化は乾燥中の気温・湿度という具合に、失敗が起きるタイミングも症状によって違います。どの段階でつまずいているかを意識するだけでも、次にどの章を読めばいいかが絞りやすくなるはずです。
ちなみに、液だれ・ムラ・白化をここで並べて挙げているのは、記事の中で扱う代表例として整理しているだけで、必ずこの順番でよく起きる、という意味ではありません。塗る対象や季節、そのときの手順のどこが抜けていたかによって、どれが出やすいかは変わってくるはずです。順位をつけることよりも、自分がいまつまずいている症状がどれに近いかを見極めるほうが、次に何を直せばいいかがはっきりすると思います。
もし今回すでに失敗した経験があるなら、まず自分の失敗がどのパターンに近いか思い出してみてください。液だれなら距離と厚塗りの章、ムラなら動かし方の章、白化なら気温・湿度の章が特に関係してきます。垂れとムラが同時に出ているような場合は、急いで厚めに塗ってしまったことが重なっている可能性が高いので、距離と厚塗りの両方の章を見ておくと原因を絞りやすくなります。弾きが出ている場合は、距離や動かし方ではなく下地の状態を扱う章を先に確認したほうが早く原因に近づけます。
どれに近いか判断がつかないときは、無理に症状から逆算しようとせず、準備から吹き付け、仕上げ前後の作業まで順番に読んでいくほうが、遠回りに見えても自分の失敗の原因にたどり着きやすいはずです。次の章から、それぞれの原因と対策を一つずつ見ていきます。
吹き付ける距離が近すぎる・遠すぎる
対象物から20〜30cm程度離して吹き付けるのが目安とされています。近づけすぎると同じ範囲に塗料が集中して垂れやすくなり、逆に離しすぎると塗料が薄く、粉っぽく乗ってしまいます。近すぎる場合は、吹き付けた瞬間に一箇所へ塗料がまとまってたまりやすく、そのまま表面を伝って垂れてしまうことがあります。厚みのある液だれは乾いた後も筋になって残りやすいので、いったん乾かしてから触ってみると分かりやすいと思います。距離が近すぎたときの液だれはイメージしやすいと思いますが、遠すぎたときの「粉っぽさ」のほうはピンとこない人もいるかもしれません。
遠すぎる場合は、噴射された塗料が対象物に届くまでの間にある程度乾き気味になり、表面がざらついたり、艶が出にくかったりする仕上がりになりやすいと考えられます。含まれる溶剤分が空気中である程度飛んでしまうためと考えられていて、色そのものというより、表面の質感が変わって見えるのが特徴です。実際に粉っぽく仕上がった面は、触るとザラザラした感触があったり、光に当てると艶がなく白っぽくくすんで見えたりします。色そのものが変わっているわけではなく、表面の質感が変わって見えているだけという点は覚えておくとよいと思います。ちなみに距離の目安は情報源によって15cm前後から30cm程度まで幅があり、20〜30cmという数字もあくまで一つの目安にすぎません。対象物や塗料によっても変わってくるので、目安の範囲の中で少しずつ試しながら、自分の吹き方に合う距離をつかんでいくくらいの感覚でいいと思います。
距離感というのは、実際にスプレー缶を持ってみないとなかなかつかみにくいものです。最初のうちは段ボールなどに試し吹きして、どのくらいの距離でどう乗るか確認しておくと、本番でのミスが減ると思います。試し吹きのときは、垂れが出ていないか、粉っぽくざらついていないか、色が均一に乗っているかを見ておくと、本番の距離感を決めやすくなります。ただし試し吹きで確認できるのはあくまで距離感や吹き付けのパターンで、本番の対象物と同じような発色や仕上がりまで再現できるわけではありません。新聞紙は距離の練習用というより、周囲を汚さないための養生として敷いておくのが実際的だと思います。
養生として使うマスキング、なかなか使えますよ?
ノズルの形状によっても、噴射の広がり方は多少変わります。丸い形のノズルは一点に集中しやすく、楕円形のノズルは面を広く塗りやすいとされていて、同じ距離で吹いても乗り方の印象が変わることがあります。丸タイプは文字を書いたりピンポイントでマーキングするような細かい作業に向いていて、楕円タイプは少し距離を取りながら面を塗るのに向いているといわれています。細かい使い分けまで気にする必要はありませんが、いつも使っている缶のノズルがどちらのタイプか、一度確認しておくと距離感の判断がぶれにくくなるはずです。
また、距離は吹き始めの一瞬だけでなく、吹いている間ずっと一定に保つことも大事だとされています。腕を伸ばしきった状態やひじを深く曲げた状態のまま吹き始めると、缶を動かしているうちに知らず知らず対象物との距離が近づいたり離れたりして、同じひと吹きの中でもムラが出やすくなります。まずは無理のない姿勢で、対象物との距離をキープしたまま動かせる範囲を確認しておくと、距離の感覚が安定しやすくなるはずです。
いきなり本番の対象物から始めるのではなく、「最初の数回で距離感をつかんでから本番に入る」くらいの気持ちでちょうどいいはずです。距離さえ安定してくれば、このあとの厚塗りや動かし方の対策も効きやすくなってきます。
一度に厚く塗ろうとして液だれしてしまう
缶スプレーで塗装するとき、一番多い失敗はたぶんこれだと思います。1回でしっかり色を乗せようとして、同じ場所に長くスプレーを当ててしまう。すると塗料がその部分だけ厚くなって、重みで下に流れてしまうんですよね。
液だれは、乾く前に気づけば直せることもありますが、完全に乾いてから気づくと厄介です。厄介に感じる理由の一つは、指で触って「乾いたかな」と感じる表面だけの乾きと、内部までしっかり固まる完全な乾燥が、実は別の段階だということにあります。表面が乾いたように見えても中はまだ柔らかいことがあるので、垂れに気づいた直後に指で触ったり拭き取ろうとしたりすると、かえって跡を広げてしまうことがありますよね。とくに厚く垂れた部分は、薄く塗ったところに比べて表面だけが先に乾き、中はなかなか乾ききらないという差が出やすいといわれているようです。薄いところと同じ感覚で「もう乾いただろう」と判断してしまうと、まだ内部が柔らかいまま触ってしまうことになりやすい(正にわたくし、これやりましたw)ので、垂れている部分ほど乾燥時間を長めに見ておくくらいでちょうどいいのではないかなと思います。垂れを見つけたときほど、いったん手を止めて完全に乾くまで待つのが、結局は近道だと思います。せっかちな自分にはこれが難しいのですけど・・・w
完全に乾いてから直す場合は、垂れて盛り上がった部分だけを目の細かいヤスリで軽く平らにならしてから、その上に薄く吹き直すというのが一般的なやり方です。粗いヤスリを使うと塗膜ごと削り過ぎてしまうので、あくまで盛り上がりをならす程度にとどめておくくらいの感覚でいいと思います。ここで本格的な研磨や下地の作り直しまで手を広げようとすると、かえって作業が大きくなってしまうので、垂れた部分を目立たなくして吹き直す、くらいの範囲で十分だと思います。垂れの範囲が小さければ、軽くならして一度吹き直すだけでほとんど目立たなくなることが多いです。範囲が広い場合は一度で仕上げようとせず、ならして薄く吹き、乾かしてまた様子を見る、という作業を数回に分けて繰り返すつもりでいたほうが、結果的にきれいに仕上がりやすいと思います。
自分の場合、800番の耐水ペーパーをよく使いますね。
ヤスリは番手によって削れ方がかなり変わります。どれを使えばいいかわからない場合は「ヤスリの選び方、間違ってない?削る作業が劇的に変わる使い分け講座」も参考にしてみてください。

対策はシンプルで、1回の吹き付けを薄めに抑えて、乾燥を待ちながら3回以上に分けて重ねていくことです。「まだ色が薄いかな」と感じるくらいで一度止めて、少し時間を置いてからもう一度吹く。これを繰り返したほうが、結果的にきれいに仕上がります。
重ね塗りの間隔をどのくらい空けるかは、使う塗料によって変わってきます。傾向としては、ラッカー系のスプレーは比較的乾きが早く、水性や油性、ウレタン系はそれよりも時間がかかりやすいといわれています。とはいえ製品ごとに差があるので、缶のラベルに書かれている乾燥時間や重ね塗りの目安を確認しながら進めるのが確実です。気温によっても乾き方は変わってくるので、その点も含めてラベルの表示を基準にするくらいでちょうどいいと思います。表面がまだ指に付くようなら、時間を置き足りていないサインだと思います。
重ね塗りの間隔が塗料によって変わってくるのは、乾燥の進み方の違いが関係していると考えられます。乾きが遅い塗料は、表面だけ先に乾いたように見えても内部はまだ柔らかい状態が長く続きやすく、その状態で早めに重ねてしまうと、下の層と新しく吹いた分が合わさって想定より厚みが出やすくなります。結果として、乾きの早い塗料に比べて液だれが起きやすくなる、という関係になっていると考えられます。使っている塗料の乾き方がよくわからないときほど、ラベルに書かれた時間を前倒ししない、というくらいの意識でいると安全だと思います。
厚塗りで一気に済ませたい気持ちはわかりますが、失敗して削り直す時間を考えると、薄く重ねたほうが早く終わることのほうが多い気がします。削り直しには、完全に乾くまで待つ時間と、ならす手間と、吹き直してからまた乾かす時間がかかります。それを合わせると、最初から薄めに何回か重ねておくほうが、削り直しの手間を考えれば割に合う選択だと思います。
スプレーの動かし方でムラができる
距離や厚みに気をつけていても、スプレーを動かす手つきが安定していないとムラは出てしまいます。よくあるのが、手首を返しながらジグザグに振ったり、円を描くように動かしたりする吹き付け方です。手首を振ると、動きの途中で対象物との距離が近づいたり離れたりして、真ん中に塗料が集中して濃く、端のほうは薄いままになってしまうんですよね。ジグザグに動かすと、折り返す角のあたりで一瞬止まったような形になりやすく、そこだけ余計に塗料が乗ってしまうこともあります。
基本は、対象物に対して平行に、一定の速さで端から端まで動かすことです。ここでのコツは、手首ではなく肘から先、もしくは肩ごと腕全体をスライドさせるように動かすことだと思います。手首だけを支点にして振ると、どうしても弧を描くような軌道になり、対象物との距離が動きの途中でばらついてしまいます。手首を固定したまま腕全体を横に運ぶような感覚でいると、直線に近い軌道を保ちやすくなります。塗り始めと塗り終わりは対象物の外側になるようにして、そこでスプレーボタンを押したり離したりするようにすると、端の部分に塗料が溜まりにくくなります。
腕を伸ばして遠くまで塗ろうとすると、途中で腕だけの動きに頼りがちになり、肘や手首が疲れてくるにつれて軌道が微妙にぶれてしまうことがあります。長い板や壁のように横幅のある対象物を塗るときは、腕だけでなく、足を横に踏み替えながら腰ごと体を移動させるようにすると、腕の疲れが軌道の乱れにつながりにくくなります。体全体でスプレーを運ぶイメージを持つと、端まで一定の速さを保ちやすくなります。あわせて、指先でスプレーボタンをこまめに調整して噴射の強さを変えようとするのも避けたいところです。ボタンを押す強さで塗料の出方を調整しようとすると、意識が指先に向きすぎて、肝心の腕や体の動きがおろそかになり、かえってムラの原因になりやすいです。ボタンは一定の強さで押し続け、濃淡の調整は動かす速さと重ね方でコントロールする、と考えておくほうがやりやすいと思います。特に横に長い対象物を一気に塗ろうとするときほど、体ごと動かす意識があるかどうかで仕上がりの均一さが変わってくるように感じます。
動かし方と合わせて、缶を構える角度も一定に保つことを意識したいところです。対象物に対してまっすぐ、垂直に近い角度で構えて、吹き付けている間もその角度をなるべく変えないようにします。途中で手首を返して斜めになってしまうと、噴射範囲の中で対象物との距離が均一でなくなり、近い部分と遠い部分の差が出やすくなります。この差は濃淡のムラだけでなく、液だれや表面のザラつきにもつながることがあるので、角度がぶれないよう、腕ごと平行に移動させるイメージを持っておくとやりやすいと思います。
もう一つ、意外と見落としがちなのが、一往復ごとの吹き付け範囲の重ね方です。スプレーの噴射パターンは中央に塗料が集中し、端に向かって薄くなっていく形をしています。そのため、1列吹き終えたら、次の列は前の列の薄くなっている端の部分に少し重なるように吹き付けると、全体としての濃淡が目立ちにくくなります。重ねる幅の目安として、吹き付け幅の半分ほどを重ねるとよいといわれていますが、缶やノズルの種類、距離によっても変わってくるので、あくまで目安として捉えておくくらいでいいと思います。段ボールなどに試し吹きをして、自分の使っている缶ではどのくらいの幅で重なっているか、一度確認しておくと感覚をつかみやすいです。
動きも角度も重ね方も、最初から完璧に揃えようとしなくていいと思います。薄く何度も往復させながら少しずつ整えていくほうが、結果的にムラの少ない仕上がりに近づきやすいはずです。
気温・湿度が合っていないタイミングで塗ってしまう
天気や気温を確認せずに作業を始めてしまうのも、よくあるつまずきどころです。距離や動かし方に気をつけていても、気温や湿度が合っていないと、乾燥不良や白化といった別の失敗につながってしまいます。ここでは寒暑と湿度、それぞれが仕上がりにどう影響するかを見ていきます。
寒すぎる・暑すぎる時期の乾燥不良
気温が低すぎる時期は、塗料の乾きが遅くなり、乾燥不良やムラの原因になりやすいとされています。目安としては、気温が5℃を下回るような時期は避けたほうがよいという解説が見られます。乾きが遅いままだと、表面が固まりきる前にホコリが付いてしまったり、まだ乾いていないのに次の作業に進んで厚みが出てしまったりしやすいので、寒い時期ほど乾燥に時間がかかることを前提に進めたほうがいいと思います。
気温が高すぎる時期については、はっきりした数値の目安というより、炎天下のような強い直射日光を避けたほうがよい、という言われ方をしていることが多いです。強い日差しの中では塗料が空中である程度乾いてしまい、表面だけが先に固まってブツブツとした肌になったり、内部との乾き方にズレが出たりしやすくなるためです。
時間帯としては、直射日光が強く当たる時間を避けて、日陰になる時間や、朝晩など気温が落ち着いている時間を選んだほうがいいといわれています。日差しが強い時間に急いで乾かそうとすると、表面だけ早く固まって内部にシワが出ることもあるので、朝や夕方を目安にするという紹介もあります。具体的には、真夏であれば朝8時から10時ごろ、夕方なら16時から18時ごろなど、気温がいくらか落ち着いている時間帯を目安にするという紹介も見かけますが、これは一つの情報源で示されている目安であり、地域や季節、その日の天候によっても変わってくる部分なので、参考程度に考えておくくらいでいいと思います。製品によって適した使用条件は異なるので、缶のラベルには使用に適した温度の目安が書かれていることが多く、作業前に一度確認しておくと安心です。
湿度が高い時期に起きやすい白化(かぶり)
梅雨の時期など湿度が高いタイミングでラッカー系のスプレーを使うと、塗膜が白っぽく曇る「白化(かぶり)」という現象が起きやすくなります。これは、塗料に含まれる溶剤が蒸発するときに気化熱で塗面の温度が下がり、そこに空気中の水分が結露のような形で入り込んでしまうことが原因とされています。閉じ込められた細かい水分の粒が光を乱反射させることで、艶が出ずに白っぽく曇って見えるという仕組みです。もう少し踏み込むと、乾燥途中の塗膜と、そこに入り込んだ水分とでは光の屈折率が異なり(塗膜側がおよそ1.5、水分側がおよそ1.33程度とされています)、その差によって境界面で光が反射・散乱しやすくなることも、白っぽく曇って見える一因とされています。湿度の具体的な目安としては、ラッカー系塗料の場合、湿度75〜80%程度を超えるあたりから白化が起きやすくなるという説明も見られますが、この数値は情報源によって多少幅があるため、厳密な境界線というよりは一つの目安として捉えておくのがよさそうです。
水性塗料では起きにくいとされていますが、ラッカー系を使う場合は、湿度の高い日を避けるほうが無難です。天気予報で湿度が高いとわかっている日は、無理に作業を進めず、乾燥した日に延期するというのも一つの判断だと思います。いったん白く曇ってしまうと、完全に元通りにするのは難しいことが多いので、乾いてからやり直すよりも、条件のいい日を選んで最初から避けておくほうが賢明だと思います。
吹き付ける前の準備不足(振らない・缶が冷えたまま)
塗る前の準備も、仕上がりに思った以上に響いてきます。距離やスプレーの動かし方に気をつけていても、振り方が甘かったり、缶が冷えたままだったりすると、それだけで濃度や噴射の勢いが安定しなくなるんですよね。ここでは、振ることと温めること、この2つの準備について見ていきます。
まず振ることについてです。スプレー缶の中には撹拌用の小さな玉が入っていて、時間が経つと塗料の顔料成分がどうしても底のほうに沈んでしまいます。振るのは、その玉の力で沈んだ顔料を崩しながら、塗料と噴射剤をもう一度均一に混ぜ直すためです。内容量が減ってくるほど「カラカラ」という音が大きくなりますが、これは缶の中で玉が動けるスペースが増えるからだと思います。振り方については、缶の上のほうを持って、底のほうが大きく動くように振ると、底にたまった顔料を崩しやすいと紹介されています。手首だけで小さく振るのではなく、底までしっかり動かすことを意識したほうがよさそうです。この振り方は、スプレー塗料メーカー自身が公式に案内している方法でもあり、缶の上部を軸にして底側を大きく振ることで、中の玉が沈殿した顔料成分を底からこそげ落とすように動く、という理屈だそうです。缶全体をなんとなく揺らすよりも、底側の動きを意識したほうが効率よく混ざる、と考えると納得できます。
「カラカラという音がしてから、さらに30秒ほど振り続ける」という目安はいろいろなところで見かけますが、正直なところ、なぜ30秒なのかという技術的な根拠までは見つけられませんでした。音がした後もしばらく振り続けて中身をしっかり混ぜたほうがいい、という方向性自体は間違っていないと思うので、30秒という数字は絶対的な基準というより、一つの目安として捉えておくくらいでいいと思います。振りが足りないまま吹き始めると、濃度が安定せず、ムラにつながりやすくなります。
次に、缶が冷えている場合です。スプレー缶の中の液化ガスは、噴射するときに一部が気化して塗料を押し出しますが、この気化には周りから熱を奪う性質があります。気温が低い時期はもともと缶自体の温度が低いので、この気化が進みにくく、圧力が回復しづらくなるんですよね。結果として、噴射の勢いが弱くなったり、出方が不安定になったりします。
温め方については、実は情報源によって案内が分かれているところがあります。ぬるま湯につけて温める方法を紹介しているサイトもある一方で、スプレー塗料メーカーの中には、お湯につける湯煎を明確に厳禁としているところもあります。私はこれを知ってから、無理にお湯につけるより、両手で缶を包むように持って1分ほど上下に振ったり、作業前に暖かい室内にしばらく置いておいたりするくらいにとどめたほうが安心だと感じています。実際、メーカー側もこの「手で包んで振る」方法を人肌まで温める手段として案内しているので、無理にお湯を使わなくても十分だと考えられます。どうしても温めたい場合でも、人肌程度を超えないようにして、熱湯や直火、ドライヤーの温風を当てるのは絶対にやめたほうがいいです。
缶スプレーは高温になると内部の圧力が上がりすぎて破裂する危険があり、炎天下の車内放置や暖房器具のそばでの保管による事故が実際に報告されています。この危険性は経済産業省や消費生活センターといった公的機関も注意を呼びかけているところで、目安として40℃を超えるような高温環境には置かないほうがいいとされています。真夏の車内や、暖房器具・ストーブのすぐそばは特に避けたい保管場所です。準備の段階でひと手間かけるだけで防げる失敗なので、振り方と温め方はセットで見直しておくといいと思います。
マスキングや下地の甘さで起きる失敗
吹き付けそのものがうまくいっても、マスキングや下地の準備が甘いと、それだけで仕上がりが台無しになることがあります。マスキングテープの端が浮いていたり、密着が甘い状態で塗ってしまうと、その隙間から塗料が入り込んで、境目がにじんでしまうんですよね。テープを貼ったあとは指の腹でしっかり押さえて、浮いている部分がないか一周確認しておくと安心です。特に角や曲面になっている部分はテープが浮きやすいので、そのあたりは少し丁寧に押さえておいたほうがいいと思います。
境目のきれいさで言うと、テープを剥がすタイミングも地味に効いてきます。塗料が完全に乾き切ってから剥がすと、テープの上に乗った塗膜と対象物側の塗膜が一体化してしまい、剥がすときに対象物側の塗装まで一緒に持っていかれてしまうことがあります。かといって、乾く前の早すぎるタイミングで剥がすと、今度は塗料がテープの端に引っ張られて糸を引いたようになり、境目が乱れてしまいます。ちょうどいいのは、表面がある程度乾いていて、それでいて完全に乾き切る一歩手前のタイミングです。夏場なら塗装後15〜20分程度で剥がすとちょうどいい、という案内も見かけますが、これは気温や塗料の種類によって変わる目安でしかないので、缶のラベルに書かれた乾燥時間も見ながら判断したほうがいいと思います。何分と厳密に決め打ちするというより、乾き切る手前かどうかを気にしながら剥がす、というくらいの感覚でいいと思います。プラモデル塗装のような小さいパーツを扱う場面では、5〜15分くらい経って少し乾いたところで剥がす、という目安が使われていることもあり、対象物の大きさや塗料の厚みによっても、ちょうどいいタイミングの幅は変わってきます。どちらの目安にしても共通しているのは、完全に乾き切る前の、指で軽く触れてもべたつかない程度の状態を狙うという考え方なので、時間そのものよりも、この状態を基準にして剥がすタイミングを決めるといいと思います。
下地の状態も無視できません。対象物に油分や汚れが残っていたり、古い塗膜が浮いていたりすると、塗料の密着が悪くなり、あとから剥がれてくることがあります。油分や汚れを落とす方法は大きく分けて2つあって、シリコンオフのような脱脂剤を布に吹き付けて拭き取る方法と、台所用洗剤のような中性洗剤で洗って、しっかり乾かす方法です。脱脂剤を使う場合は、吹き付けた布で拭いたあと、乾かないうちにもう一度別の乾いた布で拭き取るところまでが一セットだと思っておいたほうがいいです。洗剤を使う場合は、水分や洗剤の成分が残ったまま塗ってしまうと、かえって密着不良や、乾いたあとの剥がれ・割れの原因になるので、洗ったあとは完全に乾き切ってから塗るようにします。乾いたかどうか不安なときは、対象物にそっと触れてみて、湿り気やべたつきが残っていないか確認してから塗り始めると、密着不良を防ぎやすいと思います。せっかく脱脂しても、そのあと素手で触ってしまうと手の油分がついて塗料をはじく原因になるので、拭き終えたら触らないようにする、というのも地味に大事なポイントです。古い塗膜については、詳しい研磨や下地処理の手順まで踏み込むと本格的な塗装作業になってしまうので、ここでは浮いていたりめくれかけている部分がないかを確認する、という基本の確認だけで十分だと思います。
マスキングも下地も、吹き付け本番からすると地味な下準備ですが、ここを飛ばすと仕上がりの粗さとして正直に出てしまう部分です。省略したくなる気持ちはわかりますが、テープを押さえ直す数十秒と、脱脂にかける数分を惜しまないほうが、後々のやり直しを防げると思います。
マスキングテープは塗装以外にもDIYのさまざまな場面で使えます。使い道については「DIYでマスキングテープが神アイテムになる瞬間15選」でも紹介しています。

まとめ
缶スプレー塗装の失敗は、距離、厚塗り、動かし方、気温や湿度、準備、マスキングや下地のどれか一箇所に原因があることがほとんどです。特別なコツというより、この中のどこを飛ばしていないか、順番にチェックしていく作業に近いと思います。
次に塗装するときは、いきなり本番の対象物に吹き付けるのではなく、まず試し吹きで距離感を確かめて、天気と気温を見てから作業日を決めてみてください。それだけでも、液だれやムラ、白化に悩まされる回数はかなり減るはずです。
一度で完璧を目指す必要はないと思います。今回うまくいかなかった部分があっても、原因になりやすい場所さえわかっていれば、次はその一箇所だけ気をつければいいので、だいぶ気は楽になるはずです。



